第32回日本木管コンクール<クラリネット部門> 一次予選の審査員講評

山本 正治

東京藝術大学名誉教授、武蔵野音楽大学特任教授、一般社団法人日本クラリネット協会会長  ◎審査委員長

今年はクラリネットのコンクールが、日本クラリネット協会主催(5月)、日本音楽コンクール(9月、10月)と日本木管コンクール3回ありました。他のコンクールを受けてこのコンクールを受けている人が多くいました。
今回コンクールを聴いていて、Donizettiは日本音楽コンクールにも出ていたので、皆さん安定して演奏している人が多かったと思います。又、予備審査もあったので演奏レベルは高かったと思います。56人を聴いて感じた事は良くも悪くも日本人ですね、と言う演奏が多かったと思います。日本人はまず間違えないように練習しますが、まず音楽をしてそれから間違えない方向に練習するのも良いと思います。2次、本選と感動する演奏を期待します。

 

磯部 周平

東邦音楽大学特任教授、元NHK交響楽団首席クラリネット奏者  〇運営委員長

メトロノームできっちりさらえばさらうほど音楽が遠くなり… 差別化を意識してルバートを多用しても心は冷めていく… 特にDonizetti‥
Haydn→Mozart→Beethovenの流れを引き継いだSchubertと国(地域)こそ違えど同時代人であり、WeberやRossini、Belliniと共に瑞々しい初期ロマン音楽の覇者‥
参加者の中にこの視点をしっかりと持った演奏をした人が数名いました。私達は謙虚に多くの事を学ばねばなりません。「音楽を忠実に再現すること」と「自分をしっかりと表現する事」が高い次元で結び付くように…

 

近藤 千花子

東京交響楽団クラリネット奏者、洗足学園音楽大学非常勤講師、昭和音楽大学非常勤講師、東京藝術大学非常勤講師

個性が認められると共に、重視される時代に益々入ってきていると思います。演奏での個性も大事ですし、自由自在に吹きたいものです。しかし、ドニゼッティに関してはテンポが速すぎてしまい、淡白になってしまったり、大事な音の粒が犠牲になり雑な演奏につながってしまったり、或いはあまり意味のないRuba+0のせいで流れが滞ってしまっては、それは個性とは言えません。楽譜を読み取った上での表現は、一種の制約の中の自由です。
作曲家と対峙した演奏者と聴き手とのやり取りがなければ、聴き手の心まで音楽は届きません。ステージ上での一挙手一投足が音楽に向き合ったものにつながって欲しいと思った二日間でした。

 

橋本 眞介

名古屋音楽大学教授、エリザベト音楽大学非常勤講師、元広島交響楽団クラリネット奏者

まず共通課題のドニゼッティです。イタリア人の彼が最初に記載したAllegroは「快速に」という意味もありますが本来のイタリア語で明るく!だと思います。何故かテクニカル的な速さばかり目立つ演奏が多く、そのうち速すぎて自滅…とならない様にしたいものですね。速い中にも一粒一粒が明るくクリアに聴こえているか?細かいパッセージの中にもフレーズがあり、どの分散和音の重心に向かってるか?など良く考えて演奏する必要があると思いました。私がドイツ留学中に先生から聞いた話ですが、ストラビンスキーのⅠは羊飼いの鼻歌、ボーッと羊を目で追いながら鼻歌ってる様子、Ⅱの中間部はサーカス団の熊の曲芸(装飾はタンバリンのシンバル)等、何かの参考になれば。

 

本田 耕一

大阪音楽大学大学院教授、学校法人大阪音楽大学副理事長、日本クラリネット協会理事

コロナウイルス感染症に翻弄されて2年が過ぎようとしています。参加者の皆さんも、練習環境の確保が容易でない中でのコンクール参加は、想像以上に大変であったことと思われます。事前の予備審査の効果もあり、1次予選における参加者の皆さんの演奏は充実した内容で、コンクールに対する気概が感じられました。
個人的な感想としては、ホールの響きの特性が掴みきれなくて、自身の想定を上回る速いテンポになったり、音量過多になってしまったケースが少なからず聴かれたように思います。今後の参考にして頂ければ幸いです。

松本 健司

NHK交響楽団首席クラリネット奏者、洗足学園音楽大学教授、東京音楽大学兼任准教授

第一次予選出場の皆さん、お疲れ様でした。
皆さんの演奏からたくさんの刺激をいただいたのと同時にたくさんの疑問も浮かんできました。Donizettiの作品については、4分の4拍子で1拍目から曲が始まっているのに4分の4拍子の曲に聞こえない、最初に8分休符があるようには聞こえない演奏が気になりました。また三和音を響かせることが可能な音形なのに和音に聞こえないことも心配です。選択曲については特にStravinskyの作品で1曲目がMolto espressivoな演奏があったり、1曲目と3曲目には拍子が書かれているのに拍子の全く感じられない演奏に驚きました。作曲家が思いを込めて作曲した作品を奏でるのが私たち演奏家の役目です。作曲家が何を感じ、どういう音を求めて楽譜に残したのか、楽譜からそれを感じとる感受性と自分の奏でている音を聴く耳を大切にしていきましょう。

 

三界 秀実

東京藝術大学音楽学部准教授

今回は動画審査を経ての本審査ということで、いつもの一次予選に比べてレベルが高く、とても難しい審査でした。もっと多くの人にモーツァルトを吹かせてあげたかった、というのが正直なところです。今回、選に漏れた方々は気落ちせず、自信を持ってこの経験を次に活かして欲しいと思います。細かいことを一点だけ。ストラヴィンスキー2楽章最後の「meno f」はそれまでより「音量を落とす」という意味になります。何人か勘違いしているようでした。ストラヴィンスキーに限らず、楽譜の中にある音符はもちろんのこと、すべての指示に作曲家の思いが込められています。最大限尊重するようにしましょう。

 

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