高木 綾子
東京藝術大学音楽学部准教授、洗足学園大学客員教授 ◎審査委員長
1次予選のクーラウは両曲とも大変難易度の高い曲となっています。その中で、暗譜で演奏した方も数名いて、熱意を感じる事ができた2日間でした。
cis mollは丁寧さと歌心、そして調性の変化に寄り添った自由さを求められる曲です。9/8拍子は3/4拍子ではなく、かといって♪×9でもない、その拍子感を 音程の定まりにくいcisから始まる・・・そこを上手に誘導するのがespressivoかと思います。時々見せるdurの 音楽への変化をどう表現するか、考えてみてください。agitatoの意味を考えると、テンポだけではない速度変化もつけられると思います。Ddurでは、分散和音が停滞してしまう演奏が目立ちました。歌う事に集中するだけではなく、フレーズの主となる音形をまず探すようにしてみてください。「ぶってよマゼット」のテーマは総じて遅すぎます。Var,が難しいので安全運転をしているのかと思いますが、そこは上手に音楽的な面で調整できると良いですね。
清水 信貴
相愛大学音楽学部教授、神戸市室内管弦楽団首席奏者、一般社団法人日本フルート協会副会長
〇運営委員長
クーラウの音楽についはフルートのベートーヴェンなどとも言われております。Divertissement の最初はピアノでピアノパートにフルートパートを合わせて弾いてみると雰囲気が分かると思います。私の個人的な解釈では、皆さんセンチメンタルになり過ぎる傾向ににあるのではないかと思います。あとは書かれているアクセントやクレッシェンド、ディミヌエンドの位置、ダイナミクス記号などの意味をもっと考えて演奏できれば良いかと思いました。Allegro Agitato はAllegro であってPresto ではないのと、作曲家の国籍なども加味してアーティキュレイションの明瞭さも必要と思います。途中のmeno allegro はとても良いところですのでもっと味わって演奏したいなと思いました。
神田 寛明
NHK交響楽団首席フルート奏者
クーラウOp.68のNo.6と他の5曲を比較すると、使うべき「音量とその性格」は、躍動感を備えた「強いフォルテ」が必要なのが3曲、控えめ、上品で軽め、感情の内側を表すような「柔らかいフォルテ」に支配されるのが残り3曲だと思います。No.6は後者でしょう。No.1、No.5は「舞曲」を含むこと、No.3は(まったく同じではないが)テンポの推移を、No.6との共通項として指摘することができます。同じ作者、あるいは同時代の他者作品との比較研究はとても有意義です。 Op.38-1は3部構成。第2部は悲劇的な性格を持つAllegroで、Prestoではありません。ただ速いだけでは感情が空回りし、心を突き刺すことはできません。ベートーヴェンを学ぶ機会が少ない私たちフルート吹きにとって、クーラウは初期ロマン派の指標となる宝物です。
高橋 聖純
国立音楽大学准教授、元札幌交響楽団首席フルート奏者
1次予選を聴いていて気になった事の1つにブレスの事があります。フルートを吹くには息が必要ですし、吹いていれば息は無くなっていくので当然ブレスを取る必要があるわけですが、どこでどうブレスを取るかということは音楽的にとても重要です。フレーズとは、例えるなら台本に書いてある文章やセリフのような物。どこからどこまでが1つの文で、どこまでが主語でどこからが述語なのか?というふうに考えれば、主語と述語の間にブレスを取るのが自然でしょう。またセリフだとすればどこを一番言いたいか?を考えると、どこでブレスを取るべきかが分かるでしょうし、逆にどこまでは一気に喋るべき、というのも見えてくると思います。楽譜を読む時にそんな見方をすると、自分にとって適切なブレスの場所というのが見つかるかもしれませんね。
中務 晴之
大阪教育大学名誉教授・特任教授、大阪音楽大学非常勤講師
第一次予選、映像審査を通過した皆さんの安定した演奏を聴かせてもらいました。課題曲である2曲の題名の意味を皆さんどれぐらい理解していたでしょうか。ディベルティメント(嬉遊曲)はより人を楽しませる要素がないといけません。前半のラルゲットの部分は余裕のあるテンポで説得力のある演奏を聴かせて欲しかったですし、速い部分は吹き飛ばす人が多かったのが残念です。ファンタジーは一本調子になりがちなので、多様な音色を駆使して演奏しての表現をすべきでしょう。そして特にディベルティメントはフルートという楽器の最も不安定なC#の音が基本なっている調です。この音を中心として音程、音色にもう少しこだわりがあっても良かったのではないでしょうか。
長山 慶子
大阪音楽大学教授
「表現力」とはなんでしょう。皆さんはレッスンでもっと表現して!とか、もっと歌って!など日頃から言われたり、練習中も悩んだりしていることでしょう。今回1次予選を聴いて上手いなと感じた演奏は、指のテクニックや音色の良さだけではありませんでした。なぜなら、それらは十分出来ている人たちばかりでしたから。では、1次予選に残った人たちの演奏、印象に残る演奏とは?どのような演奏なのか考えてみました。pianoを大切にする人、ヒステリックにならないforteを演奏できる人、常に音程に気を配っている人、どれだけ速いパッセージでも柔軟に音色のコントロールができ音程が安定している人。、低音・高音のバランスを考えている人、構成力・骨格をしっかり考えて演奏している人、そして、その人の持っているセンス etc… これらを意識しながら1次予選の課題曲を今一度表現してみませんか?
橋本 岳人
愛知県立芸術大学准教授、名古屋音楽大学講師
課題曲であるクーラウの2作品は、どちらも10分近く殆ど休みも無い難曲。それにも関わらずレベルの高い演奏が続き、あっという間に2日間の1次予選が終了しました。技術や音色等向上していると思いますが、楽譜に記された事を読み込んだ上で、譜面に書かれていないこと、その音やフレーズにどのような歌や生命を吹き込むかを考えて演奏して欲しい場面もありました。アゴーギグに正解はありませんが、音価から大きく乖離されていた方もいたので音楽、様式感にフィットしたアゴーギグを目指してください。また会場の響きを掴んでアーティキュレーションのクリアさ、テンポ感等を一考するとより聴衆の耳を惹き付ける演奏になると思います。2次予選に進めなかった方の中にも多くの才能を感じました。参加者の皆さんの今後の成長を楽しみにしています!